
本記事では、テレビCM制作全体の流れの中でクリエイティブオリエンがなぜ重要なのか、オリエンテーションシートの項目例、さらに成果に繋がるクリエイティブ制作のためのヒントを詳しく解説します。
1. テレビCM成功の鍵を握る“クリエイティブ”の力
テレビCMは、映像、音声、音楽、ナレーションといった多様な要素を組み合わせることで、視聴者の五感に訴えかけ、深い印象を残すことができます。記憶に残るCMは、視聴者の興味・関心を高め、購買意欲を喚起する可能性を秘めているのです。このようなクリエイティブの力は、ブランドイメージを向上させ、競争の激しい市場で独自のポジションを築く上で非常に重要です。質の高いクリエイティブは、限られた予算の中でも大きな効果を生み出し、投資対効果の最大化に繋がりやすくなります。
テレビCMが高い効果を発揮するには、単に多くの人に届けば良いというわけではありません。いかに視聴者の心に響き、記憶に残り、行動へと繋がるか、その中心を担うのがクリエイティブの力です。消費者のニーズや社会文脈を捉え、共感されるメッセージを届けることで、ブランドイメージやブランド価値の向上にもつながります。
参考:テレビCM制作(クリエイティブ制作)の流れ
テレビCMのクリエイティブ制作は、多くの工程と専門知識を要するプロセスであり、効果的なCMを生み出すためには、各段階での綿密な連携と確認が不可欠となります。クリエイティブ制作の主要な流れは以下の通りです。
- オリエンテーション(ブリーフィング): CM制作の最初のステップとして、広告主が広告代理店(制作会社)に対して、CM制作の目的や背景、ターゲット、伝えたいメッセージなどを共有し、制作の方向性を明確化するオリエンテーションを行います。次章では、このクリエイティブオリエンに焦点を当て、その重要性を詳しく解説していきます。
- 企画構成~コンテ制作~キャスティング: オリエン内容をもとにCMの企画を立案し、絵コンテを作成、ターゲットに合わせた出演者を検討します。構成はCMの骨組みとなる要素を整理したものであり、絵コンテや演出コンテは、CMの構成や流れをイラストで示したもので、ナレーションや台詞、音楽や効果音の他に、登場人物の動きや位置を視覚的に表現し、台本の役割も果たします。この工程を通じて具体的な映像イメージが明確になるため、意見交換をしながら理想の形へと仕上げていきましょう。
- 撮影準備~撮影: 撮影前の最終確認としてPPM(Pre Production Meeting)を実施します。PPMとは、企画構成・演出プラン・キャスト・衣装・メイク・美術・撮影場所などについて、広告主・広告会社・制作会社のスタッフが撮影前に最終確認を行うミーティングのことです。撮影は、スタジオ撮影・ロケセット撮影(屋内)、ロケーション撮影(屋外)など複数の方法があり、撮影自体は1日から1週間程度で終わるケースが多いでしょう。なお、撮影に応じて、撮影場所の申請や許可の取得、タレントスケジュールや屋外撮影時の天候不備による撮影予備日の調整など入念な準備が必要となります。
- 編集・調整作業: 編集は、撮影した素材を構成やコンテに従って映像を仕上げていく工程で、主に仮編集と本編集があります。
・仮編集:撮影した映像や素材をつなぎ合わせ、CM全体の流れを確認するための大まかな編集工程です。映像選定やリズム・テンポの調整、ナレーションや効果音の仮設定などを行い、ストーリーや構成の大枠を固めることが目的となります。
・編集:カットのつなぎ目や色補正、ナレーションやテロップ、音楽や効果音など、映像の最終調整を行う工程です。広告主と共に確認を行い、必要に応じて変更・修正を経た後にCMは正式に完成し、放送・配信の準備に入ります。 - 考査: 考査とは、CMの内容が放送基準に適合しているかを確認する審査です。民放連自主基準に基づき、各テレビ局もしくは専門の考査会社によって2つの観点から審査が行われます。
・業態考査:主に、広告主となる企業の健全性や信頼性を確認するプロセスです。テレビCMの放映にあたり、広告主の業態(事業概要)・商品(商品概要)・商法(販売方法)が適しているかどうかを判断することが目的となっています。
・表現考査:CM動画として放送される素材について、放送倫理に反していないか、法令や放送基準などを守っているかを審査するプロセスです。例えば、「完全」「No.1」のような根拠のない最大級表現、虚偽・誇大表現、他社製品を批判する表現、人権侵害や視聴者に不快感を与える表現、医薬品・医薬部外品などで薬事法や健康増進法に違反する可能性があるもの、などは素材考査が通りません。 - 出稿: 考査をクリアした後、目的やターゲットに合わせて戦略的にCMを放映します。予算を最大限に活かし効果を上げるために、いつ(期間)、どこで(時間帯・放送局)、だれに(ターゲット層)、どのように(手段)の要素を具体的に定義し、戦略的な出稿計画を立てることが重要です。
- 効果測定: テレビCMの効果測定は、視聴者の購買行動プロセスである「認知」「興味」「検討」「行動」の4段階に分け、各段階に適切な指標を用いることが重要です。具体的には、認知段階ではブランド認知度の変化を測るブランドリフト調査、興味段階では商品やサービスへの関心度を測る態度変容調査や指名検索数の分析、検討段階ではWebサイトへのアクセス数や資料請求数の変化、行動段階では実際の購買数や問い合わせ数といったビジネス指標を追跡します。
参考:テレビCM制作のすべて!CM制作の流れ・期間・ポイントを解説
2. クリエイティブオリエンの重要性
テレビCMを制作する上でなぜクリエイティブオリエンが重要なのか?
クリエイティブオリエンとは、広告主が広告代理店や制作会社に対し、テレビCM制作の具体的な方向性や要望をまとめた“オリエンテーションシート(指示書)”を提示し、共通認識を築くための重要なプロセスです。この場で共有される情報は、CMの企画・制作の基盤となるため、クリエイティブの質と最終的な成果を大きく左右します。
その本質は、単にビジュアルの方向性をすり合わせることではなく、CMが果たすべき役割や伝えるべき価値を明確にすることにあります。これにより、ターゲット層のニーズや関心に深く刺さるメッセージ設計が可能となり、結果として視聴者の心を動かし、行動を促すクリエイティブが生まれます。
また、クリエイティブオリエンで要件や背景を丁寧に伝えることは、限られた予算内でスムーズな制作進行を可能とし、再制作リスクの低減やコスト最適化にも繋がります。さらに、提供される情報の質が高ければ高いほど、より本質的で効果的なクリエイティブ提案が生まれやすくなり、制作過程でのトラブルも未然に防ぐことができます。
このように、オリエンテーションシートの作成は、自社商品のマーケティング戦略を整理し、CM制作の軸を明確化する作業そのものです。事前準備と方向性の明確化こそが、視聴者の心に届く成果につながるテレビCMを生み出すための、不可欠なステップと言えるでしょう。
よりよいテレビCMを制作するためのクリエイティブオリエン項目例
CM制作の方向性と要望を広告主と制作会社がすり合わせ、企画・制作の基盤を築く重要なクリエイティブオリエン。この基盤が盤石であるほど、ブレのない、より効果的なクリエイティブが生まれる可能性が高まります。ここでは、オリエン項目例とポイントを解説します。
- CM制作の目的: 何のためにCMを制作するのか、実施背景や現状の課題を広告主と広告代理店などの制作パートナーが共通認識を持つことが重要です。目的が曖昧なまま進行すると、制作途中で方向性がブレたり、期待と異なる仕上がりになるリスクがあるため明確に目的の設定をしましょう。そのためには、社内の関係部署と綿密に連携し、認識のズレがないように合意形成を図ることが重要です 。
- MVV(MISSION/VISION/VALUE): 企業、サービス、商品が最も大切とする「存在意義」や「想い」を共有することは、クリエイティブに深みと一貫性・ブランドの本質を表現します。これにより、単なる広告ではなく、企業の哲学や存在意義を伝えるCMが生まれる可能性が高まります。
- 市場規模/競合情報:自社が置かれている市場の規模感や成長性、主要な競合他社のCM戦略、提供しているサービス内容、そして自社との差別化ポイントなどを具体的に共有します。これにより、市場におけるCMの立ち位置を理解し、競合との差別化を図りつつ、効果的な訴求ポイントを見出すことが可能になります。
- 伝えたいメッセージ: CMを通じて視聴者に最も印象づけたい情報、行動してほしいこと、あるいは喚起したい感情など、CMの核となるメッセージを明確にします。メッセージが多すぎると、視聴者に情報が伝わりにくくなるため、最も重要なポイントに絞り込み、簡潔にまとめることが重要です。
- ターゲット層: CMを届けたい具体的な層(年齢、性別、居住地、ライフスタイル、購買行動、潜在ニーズ、インサイトなど)を詳細に定義します。ターゲットの解像度を高めることで、彼らの心に響く言葉や映像、音楽を選定し、よりパーソナルなメッセージとしてCMを届けることが可能になり、結果として高い反応率に繋がりやすくなります。
- ブランドイメージ/トーン&マナー: ブランドが持つ個性や世界観、CM全体で表現したい雰囲気(例:明るく親しみやすい、信頼感がある、革新的など)を具体的に伝えることで、視覚的・聴覚的な表現の方向性を掴みやすくなります。これにより、ブランドの一貫性を保ちながら、視聴者に効果的にメッセージを届けることが可能になります。
- 期待する効果とKPI: CM放映後にどのような成果を期待するのか、具体的な評価指標(例:認知度向上率、Webサイトアクセス数、資料請求数、売上貢献など)を設定します。KPIを明確にすることで、成果を意識したクリエイティブ提案を行うことができ、放映後の効果測定においても評価基準が明確になります。
- 予算と納期: クリエイティブ制作にかけられる予算総額・納期などを明確に伝えます。予算と納期はクリエイティブの規模やクオリティ、制作手法に直結するため、この情報を早期に共有することで、現実的かつ最適な制作プランの立案が可能になります。
- その他 参考情報: 必ず盛り込みたい情報、避けたい表現・制約事項、過去の広告での反省点、ブランドガイドラインなど、具体的なルールを伝えます。これらの情報は、ブランドイメージを損なうリスクを回避し、クリエイティブの質を高めるための貴重なインプットとなります。
3. 成果につながる広告クリエイティブと効果分析
テレビCMの効果を最大化するクリエイティブの要素
クリエイティブオリエンで設定した方向性が、最終的なCMクリエイティブにどう反映されるべきか、成果に繋がるクリエイティブの要素を理解しておくことも重要です。
- 視聴者の記憶に残る「フック」: 視聴者の注意を引き、記憶に深く刻まれるような印象的な要素を取り入れることが重要です。例えば、耳に残る音楽や親しみやすいキャラクター、心に訴えかけるようなストーリー展開などが効果的です。これにより、商品やブランドへの好意的な感情を育み、購買行動やブランド選択に大きな影響を及ぼす可能性があります。
- 共感を呼ぶメッセージ: 競争の激しい市場で独自のポジションを築くには、消費者のニーズや社会文背景に沿った、共感されるメッセージを届けることが重要です。ブランド・商品・サービス内容の独自価値を訴求するためのメッセージ開発を行い、テレビCMという信頼性の高い媒体によって発信することで、ブランドイメージやブランド価値の向上にもつながります。
- ブランドの個性を体現する表現: 企業の個性やブランドの世界観をCM全体で表現することで、競合との差別化を図り、独自のブランドイメージを確立できます。
- 行動を促す導線設計: CMを見た視聴者が次にとるべき行動(Webサイト訪問、商品購入、資料請求など)を明確に提示することで、成果に繋がりやすくなります。
- シンプルで分かりやすい構成: 限られた秒数の中で多くの情報を詰め込みすぎず、シンプルかつ分かりやすい構成にすることで、メッセージが確実に伝わり、視聴者の記憶に残りやすくなります。
- 高品質な制作で投資対効果を最大化: テレビCMは制作・放送費用にコストがかかる傾向があるため、クリエイティブの質が低いと効果を感じられない可能性があります。ターゲットのニーズや嗜好を的確に捉えた質の高いクリエイティブは、少ない露出回数でも大きな効果を生み出し、テレビCM全体の投資対効果を飛躍的に高める可能性を秘めています。
テレシーアナリティクスを活用したテレビCMにおけるPDCAサイクル
ここまで、クリエイティブオリエンで綿密に策定したCMの方針や狙いが、クリエイティブ制作における出発点として極めて重要であることを解説してきました。
テレビCMは制作・放映して終わりではなく、放映後の効果検証と改善までを含めて一貫したプロセスとして捉えることが、CM効果を最大限に引き出す上で不可欠な要素となります。放映後に得られる定量的なデータをもとに、クリエイティブを柔軟に調整し継続的な成果向上に繋げることが非常に大切です。
「テレシーアナリティクス」は、広告主の目的に応じた独自の2つの分析手法を駆使し、膨大なデータを精緻に分析します。これにより、放送局や放映エリア、放映時間、番組、さらにクリエイティブごとの効果を定量的に測定でき、各要素における広告効果を詳細に把握することが可能です。このようにして得られたデータを活用し、テレビCMのPDCAサイクルを効率的に回し、広告効果を最大化するための戦略立案・実行が可能となります。
参考:テレビCMの効果測定指標・方法とは?最新の手法とPDCAサイクルを解説 - テレシー(TELECY) - 運用型テレビCMを軸として総合コミュニケーションサービスを提供
「テレシー」は本記事でご紹介したポイントを踏まえ、クライアント企業の課題に対して、運用型テレビCMを軸とした統合的なマーケティング・コミュニケーションサービスを提供しています。戦略策定からCMクリエイティブの企画制作、メディアプラニング、効果分析まで一気通貫して、クライアント企業に伴走し事業成長に貢献します。